(数学基礎1-3)・有理数と無理数①
数学の基礎のお勉強
第1章「命題と論証,数の世界」
第3講「有理数と無理数①」
「数学の基礎のお勉強」のシリーズの記事です。またまた更新をサボってました…
記事の意図は上のリンク先を参照してください。
さて,最近Twitterで炎上してるこの画像はご存知でしょうか。
これについてのコメントは,私の愚痴が大半を占めるので一番下に回します。
ここでは,正しい定義を学びましょう。
前の記事では,無理数が「実数のうち有理数でないもの」ということを最後に述べました。
では,有理数の定義は何でしょうか…?
順天堂大学の過去問を用いて学びましょう。
問題
【2010年 順天堂大学・医学部 改】(1) 有理数の定義を与えよ。
(2) 有理数の和・積はまた有理数であることを示せ。
(3) 命題の逆の裏を何というか。
(4) \sqrt{6} の定義を述べよ。
(5) 「自然数 a が素数 p の倍数であり,自然数 b,c によって, a=bc と表されるならば,b または c の少なくとも一方は p の倍数である」という事実が知られている。この事実を用いて,\sqrt{6} が無理数であることを背理法で証明せよ。
知識事項整理
本問では「有理数」についての問いの後,「無理数」についての問いが続くと言った構成です。
まず,有理数の定義は答えられるでしょうか。これ自体を問われなくても,有理数が何かわかっていないとできない証明問題もあります。例えば,有名問題である「\sqrt{2} が無理数であること」の証明は有理数であると仮定して矛盾が生じることを使って示すわけですから,有理数の定義がわかっていないと解けませんよね。
さて,本題の有理数の定義ですが,なんとなく「分数で表される数」とわかっているとは思いますが,正しい定義を理解しましょう。
有理数とは,
この定義を用いると,(2)もできるということになります。
続いて,(3)は命題の逆の裏ですが,これは「対偶」ですね。教科書の命題の逆・裏・対偶が載っている部分を見返してみましょう(永島先生のポイント集・No.1122も参照)。
(4)は \sqrt{6} の定義ですが,「6の平方根」と「\sqrt{6}」の違いは理解できているでしょうか。
(5)の証明は少し面倒ですね。数学が苦手な方はスルーしてもいいと思います。
p=\frac{p_1}{p_2},~~q = \frac{q_1}{q_2}
とおく。
\begin{eqnarray*} p+q &=& \frac{p_1}{p_2} + \frac{q_1}{q_2} \\ &=& \frac{p_1 q_2 + q_1 p_2}{p_2 q_2} \end{eqnarray*}
であり,p_2 q_2 は 0 でない整数,p_1 q_2 + q_1 p_2 は整数であるから,p+q は有理数である。さらに,
\begin{eqnarray*} pq = \frac{p_1 q_1}{p_2 q_2} \end{eqnarray*}
であり,p_1q_1 は整数であるから,pq は有理数である。
よって,有理数の和・積もまた有理数である.
(注)
2乗すると a~(>0) となる2つの実数を「a の平方根」といいます。したがって,「6 の平方根のうち正の方」としても正解となると思います。
\sqrt{6} = \frac{m}{n}
と表せるので
\begin{eqnarray*} &~& 6 = \frac{m^2}{n^2} ~~~~~\therefore~ m^2 = 6 n^2 \end{eqnarray*}
となる。m が 素数 p_0 の倍数であるとすると,自然数 k を用いて m = k p_0 と表せ,
\begin{eqnarray*} &~& (k p_0)^2 = 6 n^2 ~~\cdots (*) \\ &\therefore~& (k^2 {p_0}) \cdot p_0 = 6 n^2 \end{eqnarray*}
となる。
ここで,与えられた真である命題「自然数 a が素数 p の倍数であり,自然数 b,c によって, a=bc と表されるならば,b または c の少なくとも一方は p の倍数である (*)」 より,6 または n^2 の少なくとも一方は,p_0 の倍数である。
いま,m,~n が互いに素であるから,n^2 は p_0 の倍数でない。よって,6 (=2\cdot3) が p_0 の倍数である。
さて,本題の有理数の定義ですが,なんとなく「分数で表される数」とわかっているとは思いますが,正しい定義を理解しましょう。
有理数とは,
「整数 m と 0 でない整数 n を用いて,\dfrac{m}{n} と表される数」
であり,これが(1)の答えとなります。符号については分子 m を整数とすれば,正負どちらもふれられているので,n は「自然数」としても特に問題はありません。ただし,大学に入ると自然数に 0 を含めることもあるので,ここではこのように定義します。この定義を用いると,(2)もできるということになります。
続いて,(3)は命題の逆の裏ですが,これは「対偶」ですね。教科書の命題の逆・裏・対偶が載っている部分を見返してみましょう(永島先生のポイント集・No.1122も参照)。
(4)は \sqrt{6} の定義ですが,「6の平方根」と「\sqrt{6}」の違いは理解できているでしょうか。
(5)の証明は少し面倒ですね。数学が苦手な方はスルーしてもいいと思います。
解答例
(1)
整数 m と 0 でない整数 n を用いて,\displaystyle \frac{m}{n} と表される数のことを有理数という。(2)
2 つの有理数 p,~q を,2 整数 p_1,~q_1 と 0 でない 2 整数 p_2,~q_2 を用いてp=\frac{p_1}{p_2},~~q = \frac{q_1}{q_2}
とおく。
\begin{eqnarray*} p+q &=& \frac{p_1}{p_2} + \frac{q_1}{q_2} \\ &=& \frac{p_1 q_2 + q_1 p_2}{p_2 q_2} \end{eqnarray*}
であり,p_2 q_2 は 0 でない整数,p_1 q_2 + q_1 p_2 は整数であるから,p+q は有理数である。さらに,
\begin{eqnarray*} pq = \frac{p_1 q_1}{p_2 q_2} \end{eqnarray*}
であり,p_1q_1 は整数であるから,pq は有理数である。
よって,有理数の和・積もまた有理数である.
(3)
命題の逆の裏は「対偶」である.(4)
2乗すると 6 となる2つの実数のうち,正の方が \sqrt{6} である。(注)
2乗すると a~(>0) となる2つの実数を「a の平方根」といいます。したがって,「6 の平方根のうち正の方」としても正解となると思います。
(5)
\sqrt{6}>0 であるから,\sqrt{6} を有理数であると仮定すると,互いに素な自然数 m,~n を用いて\sqrt{6} = \frac{m}{n}
と表せるので
\begin{eqnarray*} &~& 6 = \frac{m^2}{n^2} ~~~~~\therefore~ m^2 = 6 n^2 \end{eqnarray*}
となる。m が 素数 p_0 の倍数であるとすると,自然数 k を用いて m = k p_0 と表せ,
\begin{eqnarray*} &~& (k p_0)^2 = 6 n^2 ~~\cdots (*) \\ &\therefore~& (k^2 {p_0}) \cdot p_0 = 6 n^2 \end{eqnarray*}
となる。
ここで,与えられた真である命題「自然数 a が素数 p の倍数であり,自然数 b,c によって, a=bc と表されるならば,b または c の少なくとも一方は p の倍数である (*)」 より,6 または n^2 の少なくとも一方は,p_0 の倍数である。
いま,m,~n が互いに素であるから,n^2 は p_0 の倍数でない。よって,6 (=2\cdot3) が p_0 の倍数である。
- (i) p_0 = 2 とすると,
(2k)^2 = 6 n^2~~~~\therefore~ 2k^2 = 3n^2
であり,2 と 3 は互いに素であるから,n は 2 の倍数であることが必要だが,m=2k より,m,~n が互いに素であることと矛盾する。
- (ii) p_0 = 3 とすると,
(3k)^2 = 6 n^2~~~~\therefore~ 3k^2 = 2n^2
であり,2 と 3 は互いに素であるから,n は 3 の倍数であることが必要だが,m=3k より,m,~n が互いに素であることと矛盾する
参考資料
永島先生ポイント集
- No.1122(命題の逆・裏・対偶について)
>>>>(以下、個人的な愚痴)<<<<
上の画像は家庭教師のトライが公開している無料映像授業TryITの数学Iの講義の一部分です(該当動画(訂正後)へのリンクはこちら)。
私はこれを最初にTwitterで見たのですが,素人
100歩譲って,授業で触れないだけなら看過できますが,さすがに嘘はよくないですね。
「わかりやすく噛み砕く」のと「テキトーに改変する」のを勘違いしているのでしょうか。この今川という講師は数学をまともに勉強したとは到底思えません。
もう一つ驚いたのはトライの管理体制です。
数学をきちんと学んだことのある人間が監修していれば,こんなふざけた説明が通るはずがありません。誰一人数学の専門家が監修していないのは明らかです。
某大手予備校の数学講師の方がTwitterで言っていたのですが,「無料だからと言って,何をやってもいいというわけではない」と私も思います。
※現在は動画を削除後,テロップをつけて訂正したものがアップロードされています。
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